【マニアック】 ボルトのグリスアップについて考える

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【スレッドコンパウンドは使うべきか!?】

こんにちは、オートバイのカッコ良さを追求するモトロックマンです。

今回は「ボルトにスレッドコンパウンドを塗るべきか、塗らないべきか」という話です。

実はこれ、プロのレースメカニックでも意見の分かれる話なんです。

先に結論から言うと、正しい答はありません。

「全部のボルトに塗る」というメカニックもいれば、「一切塗りたくない」というメカニックもいます。

では、どういうことか説明いたします。

スレッドコンパウンドとは

メーカーの説明文にはこうあります👇

銅粉を主体とした各種微粉末金属粒子と極圧剤により、高温高荷重のカジリ・溶着を防止し、錆・腐食による取付部の固着も防止します。
また、シール性に優れ、締付けトルクを一定に保ちます。高温部のマニホールド、マフラー取り付けネジ部に、またディスクブレーキグリースとして使用できます。
大型車・乗用車のホイールボルト、ナットには使用しないでください。
(自動車工業会及び各メーカーの車両サービスマニュアルに従ってください)

要約すると、以下の3つ効果があります。

① ボルトのカジリ対策
② 高温部へ対応が可能
③ 異種金属接触腐食の対策

なお、今回は「カジリ」「潤滑」をテーマに題材です。

よって、3つ目の異種金属接触腐食は割愛いたします。

なお、異種金属接触腐食に関して詳しくはコチラの記事で紹介しています。
チタンボルトは大事なバイクを腐食から守る!!

派閥は3つ

スレッドコンパウンドの使用に対し、意見・考え方は以下の3つ

・ボルト全てに塗る
・高温部だけに塗る
・塗りたくない

では、順に説明します。

全部のボルトに使用する派

まず、全部に塗るという方は カジリ対策 としてスレッドコンパウンドを使います。

「カジる可能性があるなら、全部塗る」
「カジリやすいチタンボルトには必ず塗る」

すごくシンプルでわかりやすい考え方です。

高温部のみに使用する派

次は「マフラーフランジのみに使用する」 という方です。

これは、スレッドコンパウンドが 高温部に有効 なため使用してるわけです。

では、なぜその部位にグリスを塗るのか?

それはやっぱり カジリ対策 なんです。

なので、高温部以外には別のグリスでカジリ対策してるわけです。

具体的には、モリブデングリス や モリペーストを使っています。

モリブデングリスの詳細は省きますが、スレッドコンパウンドと共通してるのは、金属粒子を使って潤滑していること。

おねじとめねじの間に入り込んだ金属粒子が、ベアリングの玉の役割をしてる、そんなイメージです。

あくまでイメージですよ(笑)

このジャンルの人達の中でも、
「初期カジリ対策のみ、締め付け後の固着対策は不要」という人は速乾性のものを使います。

塗りたくない派

最後に「塗りたくない」という人。
塗りたくない理由は2つあります。

 1つ目は、不純物をつけたくない
 2つ目は、オーバートルクになる

では、具体的に説明します。

理由1:不純物をつけたくない

まず、ここで言う不純物とはモリブデンとスレッドコンパウンドに含まれる金属粒子のこと。

エンジンを組み立てる際、初期カジリを防ぐためモリブデングリスは必須です。

でも、その場合は粒子のない 有機モリブデン を使用します。

粒子のない有機モリブデンに対し、粒子入りは二硫化モリブデンと言います。
一般的にモリブデングリスと言ったら、二硫化モリブデンを指します。

二硫化モリブデン は、金属粒子がエンジンをつまらせる可能性があります。

なので塗りたくない派からすると 「エンジン内でNGなものが、ねじ穴ならいいのか?」 ってなるわけです。

ちなみに、エンジンの組み立てには アセンブリペースト という有機モリブデングリスがよく使われます。

理由2:オーバートルクになる

ボルトにグリスを塗った場合、絶対に摩擦が低減します。

摩擦が減った状態で、規定トルクをかけるとオーバートルク (締めすぎ) になります。

ここ気を付けてください。

滑って、力が逃げるから勘違いして多めに締め込みがちですが、逆ですから。

でも、なぜトルクレンチを使って締めすぎになるのでしょうか?

それはトルクレンチが 摩擦力と軸力の合計 を計測してるから。

ボルトの締結 (締め付け) で最も重要なのは 軸力です。

簡単に言えば、締まり具合んこと。

でも残念なことにトルクレンチでは、軸力のみを測定できません。

締め付ける際に発生する摩擦も計測しちゃうわけです。

「じゃあ、摩擦力を引いたトルクにすればいいじゃん」って思いますよね?

たしかにその通り、でもその数値がわからないのが問題なんです。

サービスマニュアルにある規定トルクは、基本的にドライ状態 (グリス無し) での数値。

グリスアップした際、いくつで締めればいいのかわからない というわけです。

算出することもできるのですが、やっぱろ机上の理論であてにならないという声が多いですね。

なお、トルク管理については以下の記事で詳しく説明しています。こちらも是非ご覧ください。
【オタク度アップ】 締め付けトルクの正体は!?

ちなみに、軸力のみを計測する方法はあります。軸力計 を使えばいいんです。

ただし軸力計は非常に高価 (100~250万)
そのうえ形状が特殊なので全ての箇所に使えません。

まぁ、現実的ではないということです。

“塗らない” ではなく “塗りたくない”

「金属粒子がイヤ」
「しっかりトルク管理したい」
こういう人は、ボルトをできるだけドライで使いたいわけです。

とはいえ絶対塗らないわけではありません。

やはり、カジリ対策が必要な場合は使います。

具体的には以下のように使っています。

《スレッドコンパウンドを塗る部位》
・マフラーフランジ
・キャリパーマウント
・前後アクスルナット
《モリブデン系を塗る部位》
・エンジンマウント
・リンクまわり
・スイングアームピボット

第4の派閥

ここまでに紹介したスレッドコンパウンドの使用パターンは以下の3通り

① カジリ対策のために使用する
② 高温部限定で使用する (カジリ対策)
③ トルク管理できないから使用したくない

でも、上記以外の考えもあります。

それが トルク管理のための使用です

なんと、③の真逆なんですね。

実は、ドライ状態の表面は安定してません

ボルトの脱着によってできた傷など、様々な要因で摩擦が一定ではないわけです。

摩擦が変わればトルクレンチの数値も変化します。

それが、グリスを使うことで取付面を一定にすることができるわけです。

先ほどは「グリスアップ後のトルクがわからない」と説明しました。

でも、それがわかればドライのときよりも安定した締結ができるわけです。

具体的な数値は各チームのノウハウによって違います。

その中でもよく聞くのが、規定トルクの75~80%の数値。

この具合が良いようです。

ボクもその数値で取り付けてますが過去に問題はありません。

ただし、あくまで 目安 ですよ。

表面処理によるカジリ対策

最後に紹介するのが、カジリ対策の表面処理を施したボルト。

スズキ、カワサキのファクトリーチームが使用しています。

具体的な内容は公開されていませんが、二硫化モリブデン系の処理です。

グリスのときと同様、摩擦が低減されます。
きっと各チームの規定トルクがあるのでしょうね。

ちなみに弊社で取扱いのKナットにも二硫化モリブデンのコーティングが施してあります。


多少ですが、通常のナットとは締めた感じが異なります。

また、このナットの場合はフランジ径が純正よりも小さいので純正の規定トルクではオーバートルクになります。

またこれとは別にモトロックマンでも過去に二硫化モリブデン処理のチタンボルトを販売してました。

でも滑りすぎてトルク管理できないという問題が起こり中断しています。

現在、トライ&エラーを繰り返し再開発中です。

ファクトリーチームと同じ処理もできるのですが、それだとボルトの金額よりも処理代のほうが高くなってしまいます(-_-;)

年内には発売できるかな? こうご期待!



今回はここまでになります。
最後までご覧いただきありがとうございます。

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