【なぜ売ってない?】アクスルのクイックリリースキット

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【分解!クイックリリース機構】

こんにちは、オートバイのカッコ良さを追求するモトロックマンです。

今回はアクスルのクイックリリース機構について。

まずはコチラの動画をご覧ください。


動画内のメカニック、彼は特に慌てる様子もなく20秒程度でタイヤを取りつけてます。
なぜ、こんなに早いのでしょう?

また、これほど便利ものが、なぜ市販されていないのでしょう?

これらの疑問は構造を把握することで理解できます。

アクスルは右から入れる

市販車の場合、アクスルはどっちから入れるのが多いのでしょうか?

チョットわかりません💦
でもレーサーは右から入れます。

理由はサーキットではピットが右側になるからです。

左側で作業する場合、回り込む必要があってメンドクサイ。

エアーツールを使うときは特に。ホースがマシンを横切るため危険です。

そういった理由で車体右側で作業できるように作られています。

第1段階:ナットの固定

上はCBR1000RRのクイックリリース。
HRCのキットパーツを3D図にしてみました。

これを使って構造を段階的に説明します。

まず第1に、タイヤ (ホイール) 交換をアクスルのみの脱着で出来るようにします。

純正の場合、ナットを外してからアクスルを抜きます。空回りしないよう、アクスル頭部は回り止めになっています。

よって回すのはナットになります。これがレース用になると逆になります。

直接アクスルを回して外すわけです。そのためにはナットを固定する必要があります。
CBRのキットパーツでは、ナット(赤色の部品) の外形を長方形にし、同じ長方形に切り抜いたチェーン引きにはめ込んでいます。

これによりナットが固定されるため、工具を当てずに済むわけです。

このナットの固定方法が一番のキモ!

クイックリリース機構って、どのチームもそんなに大差ありません。違うのはこのナットの固定方法なんです。

上はダンロップレーシングチームのもの。
フタの内側 (奥) にナットのネジ山を確認できます。


上はヤマハファクトリー。
ダンロップのものと見た目は違いますが、やってることは同じです。

第2段階:部品の固定

次にすることはアクスルを除く部品をスイングアームに残った状態にすること。

市販車の場合、アクスルを抜くとチェーン引きやキャリパーのブラケットが外れて落ちてきます。

クイックリリースにするには、アクスルが無い状態でも落ちないようにします。

つまりスイングアームから外れないようにするわけです。

そのために必要なのが裏・表の部品の連結。スイングアームを挟んで外側と内側のパーツをつないで落ちないようにします。

CBRのキットパーツの場合、カラーで連結しています。

左(ナット)側の接合方法👇

つづいて右側の接合方法👇

第3段階:専用アクスル

チェーン引きが固定できたら、次は専用のアクスルシャフト。

まず、1番重要なのが径の確認。

例えばアクスル径がφ28とします。
このとき、スイングアームのアクスルを通す溝の幅(縦幅)は28mmになります。

でも、クイックリリースではそこにカラーが入ってます。

このカラーの外径がφ28になるので、内径はφ25程度になります。

従ってアクスルはφ25の径で作る必要があります。

ネジ径も同様です。本来(純正)なら、ナットはチェーン引きの外側にいます。

それがこの機構の場合、チェーン引きの内側にナットが入っています。

従って、アクスルのネジサイズも純正のときより小さくなります。

もし、アクスル径を落としたくないというのであれば、溝の広いスイングアームが必要です。

アクスルで次にすることが、頭部を六角にすること。

純正と違い、アクスルを直接外すわけですから、工具をかけるれるようにします。

反対の先端につける円錐パーツは、差し込む際のガイドです。

必須部品ではありませんが、あれば差込がスムーズになります。

CBRのキットパーツの説明はここまで。これがクイックリリースの基本構造となります。

これで、作業性は抜群に向上します。とはいえ、このレベルでは耐久レースに使えません。

0.1秒でも速くタイヤ交換するには、さらに工夫と精度が必要。このあとは、耐久仕様のためのアップグレードの説明になります。

第4段階:チェーン引きの一体化

ここまではスイングアームを挟んで内と外の部品をつないでいました。

これを更に精度を上げ、作業効率を上げるためにワンピースにします。

コの字型のチェーン引きにするわけです。

右側はキャリパーブラケケットも一体にしちゃいます。

ワンピースのため精度が高くなり、取り付ける際のガタも減ります。

第5段階:ホイールカラーのガイド

チェーンブラケットがコの字型になったら、そこにホイールカラーのガイドを設けます。

ホイールカラーの乗る段です。

この段を滑らせてチェーン引きの穴とホイールの穴が自動的に合うようになります。
段のどこに置いても穴位置が揃うわけです。

また、この段によりタイヤを持ち上げておく必要がなくなります。
これで作業が一気に速く、楽になるわけです。

以上でレース用クイックリリースの完成です。
ここからはオマケの機構です

第6段階:アクスルカップ

耐久の場合、アクスルにカップ、ファンネルという部品を取りつけます。

インパクトを使って脱着する際のアクスルの持つ部分を作るわけです。

アクスルを入れるときは特に問題ないのですが、抜くときはどうしても必要になります。

取付の方法はいろいろありますが、要はこのカップがアクスルから外れなく、空回りする構造になっていればいいだけです。

その中でチョット面白いと思ったのがカワサキとホンダ。
カワサキは転倒時に破損するようスリットが入ってます。
これは衝撃を逃がすためです。


ホンダはカーボンなんですが、ツルツルの表面を内側にしてるんです。
ツルツルの方を外側にしたほうが確かにカッコいいのに。

でも考えてみれば、そりゃそーですよね。
ツルツル側を持ってたら滑ってしまいます。

第7段階:トサカ

次は、タイヤを外した際にチェーンをかけておくフック。

この部品の正式名は知りませんが、ホンダではトサカと呼んでるようです。

言われてみればニワトリの頭みたいですね。

トサカはホンダのようにスイングアームに直接つけるチームもあれば、チェーン引きにつけるチームもあります。

第8段階:????

最後はコレ👇


何て言うものか知りません。ボクのまわりでは「チェーンにつけるヤツ」って呼んでます💦

少しでも引っ掛かることがないために装着します。ボクの経験上、無くても問題ないのです。

でも昔からあることや、装着してるチームが多いことから、やはりあったほうがイイのでしょうね。

なぜ市販されてない?

クイックリリースアクスルがあれば作業は容易、見た目もGOOD!

なのに市販品はほとんどありません。
なぜでしょうか?

その理由は2つあります。1つは、どの状態に合わせて作ったらいいのかわからないんです。

例えば第5段階で説明したホイールカラーのガイド。

このガイドに乗せるのは、ホイールカラーも専用のものが必要になります。

また市販車の場合、ホイールカラーが簡単に外れてしまいます。

外れなくするには、ベアリングにカラーを圧入しなくてはいけません。

ってことはホイールベアリングの交換も必要になります。

純正ホイール限定で作るなら、ベアリングごと用意すればいいことです。

でも、ここまでしたいユーザーが純正ホイールでしょうか?  マルケジーニやOZに変更してるのでは?

そうなると何に合わせて設計すればいいのかわからないんです。

もう1つの理由は、チェーン引き調整のボルトの位置が悪いこと。

完璧なクイックリリースにするにはチェーン引きの後方から調整が必要です。

でも市販車は、調整ボルトがチェーン引きの前にあるんです。

昔はこの位置にボルトがあったのですが「折れる、危ない」といった理由で禁止となってます。

ビッグバイクではCBR1100XXブラックバードを最後にありません。

チェーン引きボルトが前にあってもクイックリリースは可能です。

でも完璧とは言えません。じゃあ後ろに、となったら社外のスイングアームになります。

そうなると先ほどと同様「どこのスイングアームに合わせてつくるんだ?」ってことになるんです。

そういったことから量産は非現実的なんです。

スプリントマシンはどうなってる?

アクスルのクイックリリースが必要とされるのは耐久レースです。

じゃあ、スプリントマシンにはついてないかと言うと、これがバラバラ。

ここまでの紹介に何度か出てきたダンロップレーシングチーム。

耐久には出ないと聞いております。

でもクイックリリースになっています。

同じく耐久に出てないヤマハファクトリーはクイックリリースではありません。

ちなみに、ここで言うボクのクイックリリースの定義はナットを回すか、アクスルを回すかってことです。

SBK (世界選手権) のカワサキレーシングでは、スプリントにも関わらずクイックリリースになっています。
では、最後。
GPマシンはどうかと言うと・・・

国内3メーカーとも、ナットを確認できます。
つまりクイックリリースではないわけです。



今回はここまでになります。
最後までご覧いただきありがとうございます。

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